20代の平均貯金額は約151万円──そう聞いて「意外と多い」と感じた方もいるかもしれません。
しかし中央値はわずか10万円。実際には、貯金ゼロの若者も4割を超えており、貯めたくても貯められないのが現実です。
そんな20代に向けた金融コンテンツは、制度の説明だけでは届きません。今、求められているのは「自分ごと化」できる伝え方です。統計データをもとに若者の貯蓄実態をひもときながら“行動につながる情報設計”のポイントをご紹介します。
20代の「貯金の実態」を統計で読み解く
20代の平均貯蓄額は約151万円。これだけを見ると、「思ったよりも貯めている」と感じるかもしれません。しかし、実態をより正確に表すとされる“中央値”に目を向けると、その額はわずか10万円。つまり、一部の高額貯蓄者が平均値を押し上げている一方で、大多数の若者はほとんど貯金ができていないことが分かります。
さらに、貯蓄ゼロと回答した割合は、単身世帯で約42%、二人以上の世帯でも約36%にのぼります。また、20代のうち貯蓄が300万円未満の世帯は、全体の8割以上を占めており、資産形成の入り口にすら立てていない層が多いのが現状です。
このように、平均値だけを使った広報では「誤った安心感」を与える恐れがあるため、若年層向けの情報発信では“中央値”の視点を取り入れることが不可欠です。貯蓄に自信がない若者にも、「自分だけじゃない」と伝わる構成にすることで、情報への信頼と共感を高めることができます。
若年層の「金融不安」と情報接触傾向
20代の多くは、将来に対して漠然とした不安を抱えています。「老後資金が2,000万円必要」「年金がもらえないかもしれない」といった話題に触れる一方で、それにどう備えるべきかが見えず、行動に移せていない人が大半です。
また、情報源の中心がSNSやYouTubeなどに偏っており、断片的な知識や極端な成功例があふれているのも特徴です。専門的な制度の内容を一から学ぶのはハードルが高く、「自分には関係ない」「難しそう」と感じてしまう傾向も強くなっています。
一方で、「資格取得」「副業」「美容や健康」など“自己投資”にはお金を使いたいという前向きな意識も根付いており、金融に対する完全な無関心ではありません。広報コンテンツにおいては、この“学ぶ意欲”を引き出す切り口として、「生活に役立つ」「自分の未来をつくる」という文脈を添えることが効果的です。
制度説明では動かない―20代に伝わるストーリー設計術
iDeCoやNISAなど、若者にとって有益な制度は多く存在します。しかし、それらを「お得な制度です」「税制優遇があります」と説明するだけでは、20代の心は動きません。理由は明確で、自分の生活にどう関係するのかがイメージできないからです。
20代に届く情報とは、「制度の機能」ではなく、「その制度を使って“誰か”がどう変わったか」を伝えるものです。たとえば、「手取り20万円の会社員が、家計簿アプリを活用しながら1年間で50万円を貯めた」といった、等身大のストーリーが有効です。共感を呼ぶポイントは、“完璧な成功談”ではなく、“始める前の不安”や“ちょっとした工夫”といったリアルな感情にあります。
また、「制度名」を前面に出すよりも、「何ができる制度か」を先に伝える工夫も有効です。例:「月5,000円の自分年金、何歳からでも始められるって知ってましたか?」といった導入であれば、心理的な距離感もぐっと縮まります。
制度説明ではなく、“自分ごと化”のストーリー構造―これが、金融広報が若年層と信頼関係を築くための鍵です。
20代におすすめの貯金・貯蓄習慣5選
20代はまだ収入も少なく、急な支出も多いため、「貯金はしたいけれど、何から始めればいいか分からない」という声が多く聞かれます。そんな若者に向けて、今日から取り入れられる現実的な貯金・貯蓄習慣を5つご紹介します。
① つもり貯金
「飲み会1回分」「コンビニスイーツ1つ分」を使ったつもりで、同額を貯金。金額は小さくても、心理的な負担が少ない分、継続しやすいのがポイントです。
② 先取り貯金
給与が振り込まれたらすぐに、一定額を貯金用口座へ自動振替。手元にあると使ってしまう人にとっては“貯めグセ”をつける最良の方法です。
③ 固定費の見直し
サブスク、スマホ、保険など、毎月かかる「なんとなく支払っている費用」を見直すだけで、毎月数千円〜1万円のゆとりが生まれることもあります。
④ 目的別口座の活用
「旅行用」「緊急時用」など、目的を明確にした口座を複数つくると、目標が可視化され、モチベーション維持にもつながります。
⑤ ポイント投資・少額運用
楽天ポイントやPayPayボーナスを使った「ポイント投資」は、投資のハードルが低く、金融に対する関心を高める入り口として非常に効果的です。
まずは一つでも「やってみる」こと。小さなアクションが、将来の大きな安心につながります。
広報・メディアができること:信頼と行動を引き出す発信とは
金融広報において、「貯金しましょう」「制度を活用しましょう」という呼びかけは、もはや響きづらい時代です。情報過多のなかで、読み手の行動につなげるには、“生活の実感”に根ざした発信が求められます。
まず意識したいのは、統計データの活用です。ただし、単に数字を提示するのではなく、「このデータはあなたの状況とどう関係があるのか」を丁寧に示すことが重要です。たとえば、「20代の平均貯蓄額は151万円」と伝えるだけでなく、「ただし中央値は10万円。
つまり、ほとんどの人が実は貯められていないのが現実」と続けることで、“自分もその中の一人だ”という共感を引き出せます。
また、「制度の説明」より「その制度がどう役立つか」を優先して伝える視点も欠かせません。「NISAとは」ではなく、「手取り20万円でもできる、毎月1,000円の資産形成」など、行動につながる具体性と生活感があるタイトル・構成を意識しましょう。
さらに、読者に寄り添うフレーズを添えるだけでも、伝わり方は変わります。「老後資金なんてまだ先、そう思って当然です。でも、今の一歩が未来の選択肢を広げます」といった“共感+提案”型の表現は、読み手の心理的ハードルを下げ、行動を後押しします。
まとめ
20代の貯金事情には、平均値からは見えない“本当の声”が存在します。貯めたくても貯められない、制度があっても踏み出せない──その背景には、情報との出会い方や、心理的な距離があります。だからこそ、広報やメディアが担う役割は大きく、単なる知識提供ではなく、「自分にもできそう」と思わせる設計が必要です。
赤上FP事務所では、金融の専門性と生活者目線をつなぐ視点から、若年層向けコンテンツの企画・制作を支援しています。統計を伝わる言葉に変え、行動につながる金融情報を、ともに届けていきましょう。